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貸切都電で移動しながら落語を堪能! カジュアルに伝統芸能に親しむ「都電落語会」

車窓を流れる東京の景色を眺めながら、都電に揺られて噺家の落語を楽しめる稀有なイベント「都電落語会」。歌舞伎幕に彩られた車内は、高座もめくりもある寄席さながらの本格的な設営です。このイベントは「こん平でーす!」の挨拶で笑点の顔だった林家こん平師匠と、その二女である笠井咲さんの「庶民文化である落語をもっと気軽に楽しんでほしい」との思いから始まったもの。ユニークなイベントや事業を続々と企画・運営する笠井さんに、会のきっかけや立ち上げの苦労話をお聞きしました。

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商店街に賑わいを取り戻す「地域活性化」の取り組みから生まれたイベント

――都電落語会がはじまったきっかけを教えてください。

笠井さん:最初の発端は、大塚の街や商店街の地域活性化でした。そもそも私の父である落語家の林家こん平の法人と、その活動を支える私の会社・(株)EMIプランニングが大塚の商店街にありました。父が病に倒れ、テレビや高座に出られなくなった時、今度は地元の街や商店街に賑わいを創出したいと考えるようになりました。「これが本当の笑点かい(商店街)?」とダジャレも忘れないあたり、やっぱりこん平ですよね…(笑)。

寄席は都内に4箇所ありますが、子どもが来づらかったり、素人が足を踏み入れにくく敷居が高いイメージがあります。でも落語は本来、庶民文化が発祥。もっと皆さんに落語の楽しさを発信したい、垣根を低くしたいと長らく考えていました。もともと都電の貸切システムは知っていたので、100年近い歴史がある都電を利用して、江戸の庶民文化だった落語会ができないかと考えました。

コースは、大塚駅前から早稲田を通って大塚に戻ってくる「大塚コース(所要30分)」と、大塚駅前から三ノ輪橋まで行く「三ノ輪橋コース(所要40分)の2本。双方とも大塚を拠点にしたコースになっているのも特徴です。

歌舞伎幕のラッピングをした都電前で。こん平師匠と笠井さん。

歌舞伎幕のラッピングをした都電前で。こん平師匠と笠井さん。

――「都電で落語」というアイデアもユニークですね。

笠井さん:この都電落語会は、EMIプランニングの初プロデュース事業です。都電の小さな車内に寄席と同じ空間を作ってみたいとふと思いついたのですが、これが落語関係諸団体の中でも初めての試みだったらしく、その点が評価されて様々な採択事業になりました。

2014年のチンチン電車の日、8月22日に初の都電落語会をスタートした時は、豊島区の区長が来てくださり、大がかりなオープニングイベントとなりました。

当時の都知事だった舛添さんが、その翌日に放映された対談で、「オリパラ開催に向けて、移動型イベント開催を前向きに考えたい」とお話しされているのを偶然聞きました。2013年にタイミングよく東京オリンピック・パラリンピック開催が決まり、追い風の気運も感じましたね。

2019年にはこの都電落語会も5周年を迎え、少しずつ定着してきた実感があります。最初は右往左往した開催準備から当日の動きなども、かなり熟練してきました。毎年8月22日はマスコミの方々にも来ていただき、周年イベントを大々的に行うので、都電にとっても良いPRになっているのではないかと自負しています。

都電の中とは思えない本格的な雰囲気に、お客様も気分が盛り上がる。

都電の中とは思えない本格的な雰囲気に、お客様も気分が盛り上がる。

手探りから始まった都電落語会は一つ一つ積み上げて現在へ

―― 前例のないイベントで、ご苦労もあったのではないでしょうか?

笠井さん:都電の車内を寄席の特設会場に仕立てるという試み自体、前例がなかったので全て手探り・手作りでした。高座を作り、マイクやめくりも用意。歌舞伎幕を張りめぐらせて、まさに寄席の雰囲気を演出したかったんです。

都の職員の方も「こういう企画を待っていた」と言ってくださり、畳を敷いた方がいいんじゃないかとか、パイプ椅子が滑らない工夫をしましょうとか、いろいろと相談にも乗ってくださいました。都営の公共交通という性質上、縛りも多くありましたが、工夫のし甲斐もありましたね。

当時は設営物を運ぶ車も、自家用車のセダンだけ。サポートスタッフも素人で、動けるのは私一人。高座の大道具は持ち運びしやすいよう折りたたみ式を考案したり、無我夢中で知恵を絞る毎日でした。また設営物を入れたことで、誰かが怪我をしたり事故を起こしては本末転倒。「安心・安全」であることを最優先に考えました。

最初は都電の貸切や演者のギャランティ、集客まで全て持ち出しでしたが、2年目から商店街事業に組み込んでもらい、補助金を得られるようになりました。このプロジェクトが走り出したのと同時に、私も伴走するように一緒に走り始め、アイデアを出し、担当者やスタッフと一緒に積み上げてきたという思い入れの強いイベントです。

EMIプランニングのオフィスで都電落語会についてお話しされる笠井さん。

EMIプランニングのオフィスで都電落語会についてお話しされる笠井さん。

――出演する落語家の方々の反応はいかがでしたか?

笠井さん:最初は、笑点に出ていらした師匠たちに出演をお願いしました。普段は100万円単位の謝礼をお支払いするような方々に、5分の1程度の金額で出演をお願いしましたので、とても心苦しかったのを覚えています。それも父の人脈があったからこそ、できたことです。

揺れる電車に乗って、ガタゴトと音のする中で落語を披露しますし、お客様とも手を伸ばせば触れられるくらいの距離感ですので、師匠たちにとっては楽しい部分もやりにくい部分もあったかと思います。でも皆さん気持ちよくやってくださり、ありがたかったですね。現在は若手の落語家さんに出演してもらうことも増え、若手の育成の場にもなっています。

大塚の商店街事業として開催する際は、演者の方々には人情噺にしてもらったり、商店街に関する枕を入れてもらったりしています。前もって客層を見て、子どもや高齢者の参加が多い時はそれに合わせた噺にしてもらうこともあります。

先日は視覚障害者の方向けの都電落語会も開催し、介助者の方を無料にして参加しやすい値段設定するなど工夫もしました。視覚不自由者の方は感性が豊かで、噺の笑うところ、感じ入るところ、全て早いタイミングでキャッチされますね。私はその様子を目の当たりにして、「落語はもっと幅広い人たちに楽しんでいただける」という思いを新たにしました。

始めた頃は車椅子で参加していた父も、毎回参加して皆さんの前で「1、2、3、チャラーン♪」を披露しています。参加する度に元気になって、最近は介護レベルも下がり、揺れる車内で立って話せるようにまでなりました。都電落語会は父にとってはリハビリと一緒。やはり人前に出てこその噺家なんだなぁと実感します。

都電落語会に出演するようになり、ますます元気になっているというこん平師匠。

都電落語会に出演するようになり、ますます元気になっているというこん平師匠。

「出会い」と「タイミング」に助けられてここまできた

――EMIプランニングについて教えてください。

笠井さん:EMIプランニングを立ち上げた当時、私はシングルマザーになったばかりで、「さぁこれからどうしよう」と途方に暮れていました。引っ越しの時にふと目に入ったチラシが、たまたま豊島区ビジネスサポートセンターの「女性起業家輩出のサポート」という内容だったのです。

思い立ったらすぐ行動する質なので、すぐにセンターに赴き、アイデアや興味のあることを話すうちに、担当者から「それはビジネスそのものです」と言われました。すぐにイベント企画という種別を決め、起業することに。一番最初に発案したのが「都電落語会」でした。

基本的にEMIプランニングは、非営利団体である「林家こん平事務所」に関わる事業やイベントと請け負う会社という位置付けです。病に倒れ、テレビからも高座からも遠のいてしまった父のために、「私が企画したイベントなら参加させられるだろう」とも考えました。しかし今では若手落語家の育成の場になっていたり、落語の啓発につながったり、活動や事業の幅が広まってきました。

目を引く歌舞伎幕のラッピングアイデアもユニーク。

目を引く歌舞伎幕のラッピングアイデアもユニーク。

――都電落語会以外の事業はどのようなことを?

笠井さん:子ども向け落語会や落語絵本の読み聴かせ、また読み聴かせ講師の養成やシステム構築など、やはり「落語」を軸にした事業が中心です。介護講演と落語会を融合させたイベントや、笑いと健康の関連グッズ企画・販売、私のメンタル心理カウンセラーの資格を活かした講習会、チラシやポスターのデザイン制作、ノベルティグッズの企画・販売など、私が「やりたい!」と思った事業はなんでもやります。

また父の足の血流が悪くなったことをきっかけにして、着圧ソックスの企画・パッケージデザイン・販売も行いました。万能のツボと言われる三陰交の位置がわかるようになっていたり、父のイメージであるオレンジ色をデザインに採用したり、ちょっとした工夫が楽しいソックスです。大塚の「なの花薬局」でも取り扱ってくださっているようです。

都電落語以外の落語イベントの企画・運営にも携わっている。

都電落語以外の落語イベントの企画・運営にも携わっている。

――大塚の街の魅力について教えてください。

笠井さん:私自身、大塚で生まれ育ち思い入れの強い街です。何がどこにあるのか、考えなくてもどこにでも行ける自信があります(笑)。この都電落語会も、大塚駅を起点に三ノ輪方面と早稲田方面に分かれて実施しています。

路面電車が人々の間を抜けて走る風景は、東京とは思えないほどのどかでユニークですよね。海外から来る方々にとっても非常に面白い、魅力のある街だと思います。最近では駅前もきれいに整備され、その開発プロジェクトの規模の大きさを見るにつけ「さすがだなぁ」と感服します。

父も私も商店街から広がる街の活性化の活動を一つ一つ積み重ねながら、街に賑わいと彩を添えたいと考えています。南口・北口双方の商店街の会長さんをはじめ、会員の皆さんは、そんな思いに強く共感してくださる温かい方々。実は私、「折戸通り商栄会」のイベント部長なんですが、皆さんを巻き込んでもっともっと賑わいを創出できるポテンシャルが、商店街にはあると思っています。
ハード面のみならず、ソフト面である心を忘れずに、ふるさとを大事に思う気持ちを持ち続けたいですね。

――最後に「大塚新聞」の読者の方々にメッセージをお願いします。

笠井さん:落語という日本の伝統芸能文化を移動型寄席でカジュアルに楽しんでいただけたら、これ以上の喜びはありません。ぜひ一度遊びにいらしてください。
「大塚が第二の故郷」と声を大にして言っているこん平も頑張っていますので、温かいご声援をお願いいたします。

――ありがとうございました。

EMIプランニングの笠井咲(えみ)さん

EMIプランニングの笠井咲(えみ)さん

都電落語会
http://123kompei.jp/todenrakugokai

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